玉手箱開けたら 第8話

父からの電話、午前11時頃、診療中。

“朝、いつものように声をかけたが寝ているようなので、お昼の買い物に行き、帰ってきてもまだ起きてこないから、

起しに行ったら息をしていなかった。“

電話を切った後も、診療を続けた。。。。らしい。

覚えていない。

現実逃避するように、いつもより明るく3人の患者さんの治療をしたそうだ。

午後、母に対面。

警察の安置所。

扉の前で、妻が言った。

“二人きりで話してくれば。そのほうがいいでしょ。“

この言葉に救われた。

黙ってうなずき、重い扉を開けた。

顔の上の白い布をはずす。

眠っている。。。。。

次の瞬間、頭の上で大きな水風船が弾けた。

顔がびしょびしょになる。

間に合わなかった。

ごめん。。。。

全部なくなった。

虚無。

何も考えたくない。

何もしたくない。

何も考えたくない。

何もしたくない。

唯一の安全な場所が無くなった。

もう大丈夫と言ってくれる人はいない。

何のために生きるのか。

こんなに辛いのに。

苦しみから逃れたい。

どうしたらいいのか、わからない。

葬儀を終え、日常に戻る。

普通に?仕事をこなす。

が、心は固まったまま、楽しくない。

本を読む。

今の状態は、全て自分が引き起こしたこと。

神様は越えられない困難は与えない。

嘘だ!本を破り捨て、壁に叩きつける!

ダメな自分と向き合うほどに、自分を嫌いになっていった。

長女の不登校、

妻の病気、

母、

眠れない。

心療内科にかかり。薬をもらう。

吐く。

心に鉛が溜まり、動けなくなる。

仕事が出来ない。

明日こそ、明日こそと思うが、仕事に行けない。

2ヶ月がたった頃、姉から1本の電話。

頑張れと言われるんだろうなと、嫌々電話に出る。

“覚えてる?前の日、お母さん、あなたに電話するって言って、私がかけたの。“

“?!“

“夜遅いから、明日にしようと言ったのに、どうしても話すと言ってかけたんだよ。“

“あれが最後になっちゃったね。“

そうだっけ?かすかに記憶が蘇る。

“あなたは、あなたのままでいいから。いつも応援してるから。身体に気をつけてね。“

頭の奥で、声がした。

思い出した。

頭の上で水風船が再び破裂した。

産んでもらって、ありがとう。

育ててくれて、ありがとう。

愛してくれて、ありがとう。

かえさないと。。。。

薬を全部、ゴミ箱に捨てた。

不幸の玉手箱開けたら 第9話に続く

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