父からの電話、午前11時頃、診療中。
“朝、いつものように声をかけたが寝ているようなので、お昼の買い物に行き、帰ってきてもまだ起きてこないから、
起しに行ったら息をしていなかった。“
電話を切った後も、診療を続けた。。。。らしい。
覚えていない。
現実逃避するように、いつもより明るく3人の患者さんの治療をしたそうだ。
午後、母に対面。
警察の安置所。
扉の前で、妻が言った。
“二人きりで話してくれば。そのほうがいいでしょ。“
この言葉に救われた。
黙ってうなずき、重い扉を開けた。
顔の上の白い布をはずす。
眠っている。。。。。
次の瞬間、頭の上で大きな水風船が弾けた。
顔がびしょびしょになる。
間に合わなかった。
ごめん。。。。
全部なくなった。
虚無。
何も考えたくない。
何もしたくない。
何も考えたくない。
何もしたくない。
唯一の安全な場所が無くなった。
もう大丈夫と言ってくれる人はいない。
何のために生きるのか。
こんなに辛いのに。
苦しみから逃れたい。
どうしたらいいのか、わからない。
葬儀を終え、日常に戻る。
普通に?仕事をこなす。
が、心は固まったまま、楽しくない。
本を読む。
今の状態は、全て自分が引き起こしたこと。
神様は越えられない困難は与えない。
嘘だ!本を破り捨て、壁に叩きつける!
ダメな自分と向き合うほどに、自分を嫌いになっていった。
長女の不登校、
妻の病気、
母、
眠れない。
心療内科にかかり。薬をもらう。
吐く。
心に鉛が溜まり、動けなくなる。
仕事が出来ない。
明日こそ、明日こそと思うが、仕事に行けない。
2ヶ月がたった頃、姉から1本の電話。
頑張れと言われるんだろうなと、嫌々電話に出る。
“覚えてる?前の日、お母さん、あなたに電話するって言って、私がかけたの。“
“?!“
“夜遅いから、明日にしようと言ったのに、どうしても話すと言ってかけたんだよ。“
“あれが最後になっちゃったね。“
そうだっけ?かすかに記憶が蘇る。
“あなたは、あなたのままでいいから。いつも応援してるから。身体に気をつけてね。“
頭の奥で、声がした。
思い出した。
頭の上で水風船が再び破裂した。
産んでもらって、ありがとう。
育ててくれて、ありがとう。
愛してくれて、ありがとう。
かえさないと。。。。
薬を全部、ゴミ箱に捨てた。
不幸の玉手箱開けたら 第9話に続く